福富書房

かえる。

「鎌倉の怪人」の著者、松宮宏氏の個展「小説家松宮宏の文壇BAR」展覧会レポート。

お知らせ

2013年2月5日|福富書房

電車の中吊り広告、今月発売の新刊書が並んでいる。
煽りのコピーが乗客を誘惑する。有名人の推薦文に背中を押される。
駅ナカの書店に吸い込まれ、平台の陳列に旬を感じて財布が緩む。

本との出会い、こんな受動的な態度でよいのでしょうか。
結構じゃないですか、これが消費者の姿なのですから。
乗せられているのは百も承知、本は読みたいし、消費の欲望を満たすのはとても楽しい。

さて、今日は本屋の散歩。書棚の道端で、言葉をひとつ見つけて拾う。
少し歩いてまたひとつ。向こうで気配がするのでまたひとつ。
かぐわしい言葉の臭いがするので、好奇心に負けて路地に迷い込む。
異国への旅のように、巡り巡って辿り着いた所が私が今日、買うことになる本の扉。

ここまで来て、気がついた。辿り着くのが目的ではなかった。
本の路地を歩き、話を読み解く体験が旅だったのだ。
関係のない数冊の本が結びつき、視界がパッと開けたように感じることがある。
今日買った本は、旅のお土産にすぎないかもしれない。
本屋の観光も、楽しみな読書体験のひとつなのだ。
誰に煽られることなく、私だけに起こる小さな偶然の中で本に出会いたい。

小説家松宮宏氏の個展、「小説家松宮宏の文壇BAR」。
展示会場のGallery muの天井から、講談社文庫新刊「秘剣こいわらい」の中吊り広告が垂れ下がっている。
「ダマされたと思って冒頭33ページまで読んでみて!!」
「椎名誠、荒俣宏、大森望、藤田香織、賞賛!!」

そしてもうひとつ、小説家の脳内をスキャニングしたような、小説「鎌倉の怪人」の言葉の地図。
細かく書き込まれた黒板には、ハブ、ノード、パスらしきものが見える。集積した言葉の断片が迷路を刻んでいる。
連想ゲームに似ているし、思考プロセスにも見え、小説の構造設計図のようでもある。

中吊りと黒板、この2つが会場のバーカウンターに沿って展示されている。
広告文案と迷路地図の対比が、消費と自己実現に分裂した読者の行方を暗示しているようだ。
作家の書き込み、推敲、編集者の赤字、格闘の跡が生々しい原稿の展示も見える。

街から書店が消え、出版界は業績の下降が止まらない。
一方でキンドルなど新しいディバイスの発売によって勢いを増す電子書籍。
ページも、見開きも、書籍の単位さえ無効にするような新しい「本」が台頭してきた。
今まさに混沌とした出版の世界、未来の本はどうなるのか。
書斎を装った展示空間に、小説家の比喩的仮説が提示されている。

最後に、小説家松宮宏氏から展覧会へのお誘いです。
「どきどきして、はらはらして、勇気もらって、ココロがジ?ンとなる。物語は、そうでなくては。」
ギャラリーMU はバー営業、カクテルでも飲みながら本について話しませんか。

 

「小説家松宮宏の文壇BAR」

2013年2月5日(火)~3月1日(金)

Gallery mu
東京都渋谷区神山町5-6 渋谷酒販会館B1F/03-5790-9906
Gallay mu のFacebookページ


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