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ハワイ語会話 その12 「カウの季節とホ・オイロの季節」

北鎌倉ハワイアンセンター

2012年9月24日|森下 茂男

古代ハワイ社会における季節の呼び方

前々回(ハワイ語会話その10)では、古代ハワイ社会における日にちの呼び方を書きましたが、今回は月の呼び方と季節について書き進めていきましょう。

亜熱帯地域の北限に位置するハワイ諸島には、日本のようなはっきりとした四季はありません。しかし、住めばお分かりになると思いますが、ハワイには雨期や乾期、そして夏になれば暑くなるし冬は寒く感じます。おおまかにハワイには二つの季節が存在しています。古代ハワイ社会でも一年を二つ、または三つの季節に分けていました。人が住んでいる北端の島、カウアイ島と南端の島、ハワイ島では約360キロメートルも離れており、同じ亜熱帯のハワイ諸島でも島ごとに気候や季節が異なっています。

古代ハワイ社会では、島ごとに天文学や占星術を専門とするカフナと島の長、大酋長であるアリイ・ヌイが、月や太陽の位置、星の位置、そして、動植物や気候など自然の移ろいを読み解き、季節や月を決め、農業や漁業など生活に役立てていました。その後、カメハメハ一世がハワイ全島を征服したときに、季節・月をハワイ全体で統一することになりました。

それでは、ハワイ諸島の中で最も大きな島、ハワイ島における季節と月を見ていきましょう。古代ハワイ社会における二つの季節は、カウ(kau)とホ・オイロ(Ho`oilo)と呼ばれていました。カウ(kau)は季節、または夏を意味し、ホ・オイロ(Ho`oilo)は冬、または雨期を意味するハワイ語です。

 

『ハワイアン・アンティークティズ/Hawaiian Antiquities』(David Malo, Bishop Museum Press)のなかで、デビッド・マロは、カウとホ・オイロについて次のように説明しています。
「カウの季節は、太陽は頭上を通過し、モア・エ(Moa`e:北東からの貿易風)が吹く。昼も夜も暖かく、作物は青々とした葉をつける。ホ・オイロの季節は、太陽は南に傾き、夜が長い。そして、昼も夜も涼しく、ツタや青草が枯れる。

フフイ・ホークー(Huhui Hōkū)=スバル座の星団が日の出前の空に現れるとき(5月〜6月)、カウの最初の月、イキイキ(Ikiiki)がはじまる。イキイキの次は、カ・アオーナ(Ka`aōna)の月(6月〜7月)。漁師たちは、オーペル(`ōpelu:マルアジ)を捕まえるためのア・エイ(`A`ei:魚網)をいつでも使えるように用意する」。

少し補足して解説しますと、イキイキ(Ikiiki)とは、息苦しいほどの暑さと湿気、または夏季を意味するハワイ語で、ア・エイ(`A`ei)は、オーペル(`ōpelu)やマオマオ(Maomao:スズメダイ科のハワイ固有種の魚)を捕るための漁網のことです。

デビッド・マロの話しを続けましょう。
「ヒナイア・エレ・エレ(Hinaia-`ele`ele)の月(7月〜8月)は、オーヒ・ア(`ōhi`a )の実が熟しはじめる。マーホエ・ムア(Māhoe-mua)の月(8月〜9月)は、熟したオーヒ・アの実がたくさんとれる。マーホエ・ホペ(Māhoe-hope)の月(9月〜10月)は、サトウキビの穂がさやを脱ぐ。そして、カウの最後の月は、イクワー(`Ikuwā)の月(10月〜11月)となる」と、マロは述べています。

また、補足しますと、オーヒ・ア(`ōhi`a)は、正式にはオーヒ・ア・アイ(`ōhi`a `ai)と呼びますが、英名はマウンテン・アップル。夏のはじめから秋のはじめ頃まで、ピーマンの大きさほどのリンゴがなります。オーヒ・ア・アイもまたポリネシアンたちにとっての有用な植物として、カヌーでハワイに持ち込まれた24種類の植物(カヌー・プランツ)の一つです。イクワー(`Ikuwā)は、この時期特有の大波による轟きや雷、豪雨など騒々しい気候にちなんで名付けられました。また、この月にはコノヒキ(Konohiki)と呼ばれた役人が大声で税としての年貢を納めるように言いながら村々を巡りました。イクワーには「大声の」という意味もあります。古代ハワイの人たちにとって、イクワーの月は納税の月でもあったのです。

さて、カウの季節は、ハワイの実りのシーズン。大自然の実りを収穫した古代ハワイの人たちは、待ちに待った新年のお祭りマカヒキ(Makahiki)を迎えます。デビッド・マロは、ホ・オイロについて次のように述べています。
「ホ・オイロの季節は、ウエレフ(Welehu)ではじまる。ウエレフの月(11月〜12月)は、サトウキビの穂で作った矢でダーツを楽しむ。マカリ・イ(Makali`i)の月(12月〜1月)は、作物は枯れ、コナの南風が吹く。カー・エロ(Kā`elo)の月(1月〜2月)は、エヌヘ(`Enuhe:スズメガの幼虫)が空へ飛び立ち、ブドウ類が新しい葉を付ける。カウルア(Kaulua)の月(2月〜3月)は、アナエ(`anae:ボラ)の産卵の月。ナナ(Nana)の月(3月〜4月)は、マーロロ(Mālolo:ツマリトビウオやサヨリトビウオなど、ハワイに生息するトビウオの仲間の総称)が海で跳びはねる月。そしてホ・オイロの季節は、ウエロ(Welo)の月(4月〜5月)で終わる」と、古代ハワイ社会の生活ぶりが垣間見える口述をしています。ちなみに、アナエ(`anae:ボラ)は完全に成長したアマ・アマ(`ama`ama:ボラの幼魚)のことを指しています。

古代ハワイ社会における月の呼び方

現在の世界標準では、新年は1月1日からはじまりますが、古代ハワイ社会でもおおよそ12月から1月の間に新年がはじまりました。しかし、古代ハワイ社会での新年は固定されていたものではなく、太陽や月、そして星など、宇宙万物の動きによって決められていました。古代ハワイ社会における新年は、東の空にスバル星団が現れたのちの最初の新月の晩からはじまりました。12ヶ月の月の呼び名がその月の気候や自然を表現したものが多いのもまた、古代ハワイの人々が自然のサイクルとともには生活していたことの証しなのでしょう。月の名前はまた星の呼び名をもかねていて、古代ハワイ社会では月ごとに標準星が決められていたようですが、現在、その多くの名前がどの星をさしていたのか不明となっています。

マカリ・イ(Makali`i)の月:12月〜1月

新年の最初の月がマカリ・イ(Makali`i)です。古代のハワイの人たちは、東の空にスバル星団が現れると新年が近いことを知ります。マカリ・イは、スバル星団が東の空に現れた後の最初の新月の夜からはじまります。農夫は、スバル星団が東の空に現れるとクズイモやヤムイモの新芽が芽吹く季節がやってきたことを知り、畑を耕しはじめました。マカリ・イの月は雨期なのです。

カー・エロ(Kā`elo)の月:1月〜2月

カー・エロ(Kā`elo)は、Ka=定冠詞+`Elo=湿るという言葉で、カー・エロは水浸しの月という意味のハワイ語で、一年の二ヶ月目の月になります。この月は、マカリ・イに続いて雨期にあたり、水に浸る農作物を見た古代ハワイの人たちは、この月の名前を付けました。カー・エロの月は、スズメガの幼虫やさまざまな虫が繁殖し、渡り鳥たちはその虫たちを食べて太る月で、農夫もまたそれら害虫から農作物を守らなければならず、忙しい月となります。カー・エロの月が終わる頃になると、雨を運ぶ南西の風、コナの風はじきに終わりを告げ、北東からの乾いた貿易風が吹きはじめます。そして、雨期は終わります。

カウルア(Kaulua)の月:2月〜3月

カウルア(Kaulua)は、Ka=定冠詞=Ulua=両方・二重という意味で、寒かったり暑かったりするこの月の気候を表しています。また、カウルアは双胴カヌーという意味もあります。カウルアの月は、冷たい風や温かい風が 交互に吹き、どっちつかずの天候に人々はビーチに行ったり家にこもったりと、この月の名前同様にカウルアの生活を強いられます。また、この月はひな鳥がピヨピヨ鳴き羽毛が生え変わる月でもあります。山すそや低い山に自生しているオーヒ・ア(`Ōhi`a)の木にはレフア(Lehua=オーヒ・アに咲く花)が咲き、狩人たちは山に分け入り、山小屋に滞在しながら鳥を捕獲するネットやワネを仕掛けます。

ナナ(Nana)の月:3月〜4月

ナナ(Nana)の月は、温暖な気候で過ごしやすい月となります。すべての植物、鳥などの動物たちは活き活きとし、親鳥は巣立ちに向けてひな鳥の餌を与えるために忙しく飛び回る月です。オーヒ・アの木のレフアの花は満開となり、鳥たちが集まってきます。

ウエロ(Welo)の月:4月〜5月

ウエロ(Welo)の月は、農夫にとって一年を通じて最も収穫が期待できる月です。オーヒ・アの木々には若葉がつき、花々はやがて果物に実っていきます。すべてが成長する季節なのです。ウエロ(Welo)は風の中で旗などがはためくという意味もあります。

イキイキ(Ikiiki)の月:5月〜6月

イキイキ(Ikiiki)の月は、風がなくじめじめと湿った暑苦しい月です。イキイキ(Ikiiki)とは息苦しいほどの暑さと湿気という意味もあります。また、夏をさすハワイ語でもあります。ムシムシとした暑い夏のシーズンのはじまりの月で、作物は実り、食べるものはふんだんにあり、人々は海へ釣りをしに向かいます。人々にとっても、また作物にとっても充分な太陽があるので、古代ハワイの人々はイキイキ(Ikiiki)とは「充分な」という意味に解釈しているぐらいです。この月、ブレッド・フルーツ(パンノキの実)が採れる最初の季節なので、人々はそれを楽しみに待っています。高い山のレフアには実がつきはじめるので、鳥を捕る狩人にとっては2番目の忙しい季節がやってきます。そして、低地のオーヒ・アの木々にはマウンテン・アップルがなりはじめます。

カ・アオーナ(Ka`aōna)の月:6月〜7月

カ・アオーナ(Ka`aōna)の月は、人々にとって満ち足りたひと月になります。食べ物はふんだんにあり、人々は釣りをしに海に行きます。将来に向かってなにか行動を起こすのに最適な季節でもあります。結婚したり、または、新しい家やカヌーを建てたりする月です。この月に結婚する女性は、幸せな生活と丈夫な子どもを授かることができると考えられています。古代ハワイ社会にもジューン・ブライドという考え方があったのですね。

ヒナイア・エレ・エレ(Hinaia-`ele`ele)の月:7月〜8月

ヒナイア・エレ・エレ(Hinaia-`ele`ele)の月は、熱帯の季節で、突然夕立がやってきます。ヒナイア・エレ・エレ(Hinaia-`ele`ele)とは、エレ・エレ(`ele`ele)=暗闇+ヒナ・イア(Hina ia)=山にかかる、つまり、黒い雲が山にかかる季節なのです。空は一面黒い雲に覆われることが多く、時おり、豪雨に襲われることもあります。作物類はしっかりと実り、果物をつけます。女性や子どもたちは、涼しい森でたわわに実ったマウンテン・アップルを採りに出かけのを楽しみにしています。

マーホエ・ムア(Māhoe-mua)の月:8月〜9月

マーホエ・ムア(Māhoe-mua)とは、「マーホエ(Māhoe)=双子+ムア(Mua)=先の」という意味になり、双子の最初の月です。マーホエ・ムア(Māhoe-mua)の月とマーホエ・ホペ(Māhoe-hope)の月は双子の月、つまり、この二月は比較的同じような気候といえるでしょう。マーホエ・ムアの月は、雨期のはじまりの月です。雨と風の日と強い日差しの晴れの日が交互にやってきます。そして、荒れた海の日と穏やかな海の日もまた交互に続きます。そんな気候が続く最初の月がマーホエ・ムアです。

マーホエ・ホペ(Māhoe-hope)の月:9月〜10月

マーホエ・ホペ(Māhoe-hope)の月は、「マーホエ(Māhoe)=双子+ホペ(Hope)=後の」とい意味で、双子の月の二番目の月になります。人々にとってマーホエ・ホペの月は、冬に備えて食料などを蓄えなければならない月です。人々は、きたるべき新年、マカヒキに備えて、山に分け入り、野生のイモやさまざまな食べ物を採取してこなければならない月です。

イクワー(`Ikuwā)の月:10月〜11月

イクワー(`Ikuwā)の月は、コノヒキ(Konohiki)の月と呼ばれています。コノヒキ(Konohiki)は、島を治める大酋長が支配する区割りした行政区アフプア・ア(Ahupua`a)の区長のことですが、コノヒキは、イクワーの月になると、彼の行政区に住む人々に大声で収穫した作物などを税金として徴収する旨を告げて歩き回ります。イクワー(`Ikuwā)とは、「騒々しい、大声の」という意味のハワイ語です。また、この季節は空には雷鳴が轟き、強風が吹き、海は高潮が押し寄せる嵐の季節で、イクワー(`Ikuwā)の月はそんな慣習や気候から名付けられました。人々は、高波が砕ける海に向かい、波乗りに熱中する月でもあります。

ウエレフ(Welehu)の月:11月〜12月

ウエレフ(Welehu)の月は、人々にとって楽しみな月となります。年に一度のマカヒキ(Makahiki)の月です。マカヒキのお祭りは、豊饒と幸福をもたらすロノ(Lono)の神を礼拝することからはじまります。クー(Kū)、カーネ(Kāne)、カナロア(Kanaloa)の神を祭った寺院は閉じられ、ロノの神を祭った寺院のみが開いています。マカヒキのお祭りの期間は、戦いは禁止、またケンカや仕事も禁止され、人々は賭け波乗り大会やさまざまなスポーツ大会、イベントを楽しみます。

ハワイ島嶼別の季節と月の呼び方と分け方

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