ずいぶん前だが、人類が初めて火を手に入れるという映画があった。タイトルは「Quest For Fire(日本タイトルは人類創世、ジャン=ジャック・アノー監督/1981)」。せりふはまったく出てこなかったが、ストーリーは一目瞭然だった。この映画では、人間が初めて正常位でセックスすることになるシーンもあって、笑えた。
前回「食べる=`Ai(アイ)という言葉からハワイ語がはじまった」ことを記したが、ハワイ語が形成されていった過程もまた、この映画のようにとてもシンプルだ。ハワイ語はコミュニケーションを取るには分かりやすい言語だったに違いない。
当時、文字という記録する文化がハワイにはなかったので、ある意味、原始的とも言えるのかもしれないが、文字がないことが逆に会話としてのハワイ語の成熟度を増す結果になった。古代ハワイアンたちは、ハワイ語の裏の意味を使い分けながら言葉遊びを楽しんでいたといわれている。
伝え残すべき事項はすべて口承(チャント、メレなども含め)、またはフラで演じられていた。文字文化がないぶん、古代ハワイ社会では口承文化が発達していた。
そのために、初めてハワイを訪れたキャプテン・クックをはじめ、スペイン、ポルトガル、イギリス、ドイツなど、大航海時代の帆船には必ず言語学者が乗り組み、太平洋の島々に住む人々の言葉をかたっぱしから調べて記録に残した。ハワイでは、ハワイの原住民から聞きとり調査を行ない、ローマ字綴りのハワイ語文字を作成していった。
それはなぜか。表向きにはコミュニケーションを取る必要があったからだが、キリスト教の布教には現地の言葉の習得が不可欠だった。ハワイや太平洋地区に派遣される宣教師たちには現地語を会話するための教科書が必要だった。
こうして、太平洋地区に住む人々の言語学の体系ができ上がった。それによると、ハワイ語は台湾やマレー半島に端を発したオーストロネシア語族(原オーストロネシア語族)に属しているとされている。特に、ハワイ語などの太平洋のオーストロネシア語族(海洋系と呼ばれている)は、ニューギニア北部沿岸地域の言語から派生したとされている。このオーストロネシア語族には、パプア・ニューギニアの大部分とオーストラリア原住民の言葉は含まれないらしい。
この海洋民族の言語ともいわれているオーストロネシア語族の語系分布はかなり広範囲にわたり、フィリピン諸島、インドネシア、台湾などの東南アジアから西はアフリカ南東部のマダガスカル島、東はニュージーランドやミクロネシア、メラネシア、ポリネシアなどのオセアニアの島々まで、ほぼ太平洋全域に及んでいる。さらに、日本語のなりたちにもオーストロネシア語族の影響も受けているという研究がある。
この原オーストロネシア語を祖語とする原オセアニア語から派生した原東オセアニア語は、海洋民族の移動とともに原中央太平洋語を生み、さらに原フィージー語と原ポリネシア語に分かれた。その後、紀元前600?紀元200年に南太平洋で使われていた原ポリネシア語は、紀元前200?紀元200年に原核ポリネシア語と原トンガ語に、また、紀元200?800年に原東ポリネシア語とサモア語に分かれた。紀元800?紀元1000年までに、原東ポリネシア語からハワイ語、タヒチ語、マルキース語、イースター語、およびニュージーランドのマオリ語などの東ポリネシア語が生み出された。
このように、ハワイ語は、言語学上は東ポリネシア語のハワイ方言に分類されるが、中央ポリネシア語であるサモア語、トンガ語などとも非常に近い関係にある。前々回、「こんばんわ」というハワイ語は「Aloha ahiahi(アロハ・アヒアヒ)」で、このahi(アヒ)は燃えるとか火を意味する言葉だと説明したが、この「火」という単語を例にとると、トンガ語では「afi」、サモア語では「afi」、マルキース語では「ahi」、タヒチ語では「auahi」、イースター語では「ahi」、マオリ語では「ahi」、と、ハワイ語の「ahi」と非常に似かよっていることがわかっている。
今回はちょっとアカデミックな話になってしまったけど、ハワイアンとタヒチアンがブラ(兄弟)であることは、ハワイ語とタヒチ語(正確にはタヒティエ語)の比較を見てもらえば一目瞭然だ。
次回は、ハワイ語の発音について書いてみたい。