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世界遺産「地中海ダイエット」

北鎌倉地中海倶楽部

2012年11月3日|福富 弘人

「地中海ダイエット」(The Mediterranean diet) は、2010年ユネスコの無形文化遺産に登録されました。
ダイエットは痩せ方・減量の意味に使われているけれど、もともとは健康のための食事法、古代ギリシア語の「生活様式」を差す言葉らしい。

心臓病による死亡率と食事の関係の研究で、ギリシャ・イタリアなど地中海諸国比べ、アメリカ・北欧諸国の心臓疾患の死亡率は25倍に達するとの研究結果が報告されています。これらの研究結果から、地中海地方に伝わる伝統的ライフスタイルが「人類が残すべき生活様式」として浮かび上がってきたのでした。

世界遺産の根拠となっているのが、食生活をピラミッドの形に構成した実践メソッド。
「地中海ダイエット」の基本は、オリーブなどの植物油を使い、動物由来のバター・ラードなどの油を控え、季節の野菜や果物、パスタなど植物性食品を豊富に摂り、獣肉より魚を、ほどほどのワインを飲み、食事と会話を時間をかけて楽しむのです。

7世紀のはじめ、南イタリアの保養地サルレノの街に、ギリシャ、ユダヤ、サラセン、ラテンの4人の医師が集まり、医療学校の設立と共に健康に関する書物「サルレノ養生訓」が編纂されました。
「サルレノ養生訓」の書き出しは当時のイギリス王への手紙から始まります。
イギリス王ノルマンディー侯ロベールは常に忙しく、ささいな事で怒り、暴飲暴食を続けていました。手紙にはこう記されています。

「気苦労を背負い込まず、烈火のごとく怒ることは避けなさい」
「ワインの痛飲は止め、晩餐は軽くとり、さっと目を覚ましなさい」

(サレルノ養生訓―地中海式ダイエットの法則)/佐々木巌(著) より

何やら現代人のストレス性疾患を思い起こさせるようなお話です。
地中海には、人間が健全なバランスを保って生きていくための知恵と技術が地層のように積み重なっているようです。

古代エギプト、ギリシャ、ローマ、地中海は偉大な文明を生み出しました。
新約聖書の原典はギリシャ語で書かれ、哲学も、幾何学も、魔女の呪術もこの地域で生まれ、やがてアルプスを超えてヨーロッパ全土に広まったのです。

イタリアの哲学者フランコ・カッサーノは著書「南の思想・地中海的思考への誘い」でこう書いています。
遅さ、矛盾、自由、「南」には近代が忘れた富がある。力ではなく弱さを。所有の自閉のかわりにフロンティアの開放を。ブレーキの壊れた資本主義のかわりにゆったりとした「 適度」を。

経済危機の渦中にある、ギリシャ、イタリア、スペインなどの地中海沿岸諸国。
小石のように浮かぶ地中海の島々、庭のテラスには、大皿に盛られた料理とワイン。
いつもと変わりなく朝日が昇り、夕日は沈み、人々はゆったりとした時間を過ごしています。

貧困をもたらす「経済格差」と豊さの世界遺産「地中海ダイエット」。
この逆転現象、このギャップは何なのでしょう。

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